ChatGPTなど生成AIは“背景”を理解できない?|著名人トラブルから学ぶ企業法務・コンプライアンスリスク

AI活用・経営法務コラム

ChatGPTなど生成AIは「背景」を理解できない?
著名人トラブルから学ぶ企業法務・コンプライアンスリスク

製造業をはじめとした事業主様はAIを業務に使用していますでしょうか。当事務所では記事の原案や情報収集、コード生成など多種多様に利用しています。社内SEがいるかのようです。さてChatGPT(チャットGPT)をはじめとする対話型AIや生成AIの普及により、私たちの生活やビジネスは劇的に便利になりました。簡単な質問への回答から、ビジネスメールの作成、契約書の雛形づくりに至るまで、AIはまたたく間に「最適と思われる答え」を提示してくれます。実際に東大入試は主席級だっとことが話題となりました。

しかし一方で、AIの判断をそのまま現実社会やビジネスの現場に適用することの「思わぬ落とし穴(法務リスク)」も浮き彫りになりつつあるのではないでしょうか。

AIは入力されたテキスト情報から論理的な「正解」を導き出すことには長けていますが、その背後にある複雑な人間関係や、言葉にされていない「泥臭い背景・文脈」を汲み取ることは、現状では非常に困難だと考えられます。

本記事では、最近世間を騒がせた「ある著名人の家庭内トラブルと、対話型AIへの相談」という事例のメカニズムを参考にしつつ、製造業などのビジネス現場や法務(契約書作成など)において、AIの「正論」に頼りすぎることの危険性と、人間(行政書士などの専門家)が介在することの真の価値について考察してみたいと思います。

1. ある著名人のトラブル報道に見る「ChatGPT等への相談」のメカニズム

最近ある著名なスポーツ指導者が、家庭内での口論の末にご家族に手を出してしまい、警察沙汰になり最終的に職を辞することになったという報道がありました。

この一連の出来事の中で、ITやビジネスの観点から注目された興味深い点があります。それは、トラブルの直後、当事者であるご家族が「ChatGPT(チャットGPT)」のような対話型AI(チャットボット)に状況を相談したという情報です。

実際のAIとのやり取りや、各機関での細かな対応は当事者にしか分かりませんが、報道等の情報を総合すると、一連の流れの中で「例えば、以下のようなメカニズム」が働いたのではないかと推測されます。

  1. 当事者が対話型AIのチャット画面に「親に投げ飛ばされた」といった内容を入力する。
  2. AIはテキスト情報からそれを「暴力事案」と論理的に判断し、マニュアル通りに児童相談所などの公的機関へ連絡するよう促す。
  3. 案内された通りに児童相談所へ連絡。児童相談所は子供からの通報であれば「大ごと(緊急事態)」と捉える(機関としては当然かつ正しい対応)。
  4. マニュアルに則り、警察へ連携される。
  5. 結果として、当事者間の個人的な想定を大きく超えた、逮捕・報道・辞任という「明らかにオーバーな対応(と思われる事態)」へと発展してしまったと推測されます。

ここで重要なのは、AIの対応は決して間違っているわけではない(と考えられる)ということです。「親に投げ飛ばされた」という言葉に対して、安全を最優先に考えた公的機関を案内するのは、プログラムされた正論としては完璧な反応でした。

2. 生成AIの欠点:チャットの断片的な情報からは「背景」が見えない

では、なぜ「AIは間違っていない(言われたことに正しく反応しただけ)」なのに、これほどまでに問題が大きくなってしまったのでしょうか。
それは、生成AIには「文脈や背景が見えない」からに他なりません。

チャットボックスに入力される短いプロンプト(文字情報)だけでは、状況の「断片的な部分」しかAIには伝わりません。もし同じ相談を、その家庭の事情をよく知る生身の人間(親戚や恩師など)が受けていたとしたら、どうだったでしょうか。

人間であれば、「それは良くないことだ」と判断しつつも、同時に「ただ、相手は社会的に非常に影響力のある立場にいる」「本人は単に話を聞いてほしかっただけで、大ごとにしたい(警察沙汰にして相手の職を奪いたい)とまで思っているわけではないかもしれない」といった、相手の立場や感情のグラデーション、将来のハレーション(影響)といった複雑な「背景」を考慮した上で、アドバイスの内容を調整できたはずです。

現状のAIツールは、ルール上の白か黒かを判別することには極めて優秀ですが、長年培われた関係性の機微や、言葉にされていない「行間」を汲み取り、あえてグレーな最適解を探るような柔軟性は持ち合わせていません。断片的な入力に対して局所的・マニュアル的な正論しか返せないことが、時として意図せぬ巨大なトラブルを生むのです。

3. 契約書作成など、ビジネス・法務における「AIの正論」がもたらすリスク

この「AIは背景を知れない」という致命的な弱点は、製造業などのビジネスの現場や、企業の法務・契約実務においても、全く同じ構図でトラブルを引き起こすリスクがあります。

契約書作成をAIに任せるリスク例

例えば、取引先との新しい契約書を作成する際、ChatGPT等のAIに「自社にとって最もリスクが低く、有利な条件の業務委託契約書を作って」と指示したとします。AIは法律に則り、自社の責任を極限まで排除した、法的に完璧な「正論」の契約書を一瞬で出力してくれるでしょう。
しかし、それをそのまま長年付き合いのある取引先に突きつければどうなるでしょうか。相手は「今まで信頼関係でやってきたのに、急にこんな冷酷な条件を出してくるなんて」と態度を硬化させ、最悪の場合、取引そのものが破綻してしまう恐れがあるのではないでしょうか。

現実のビジネスでは、「法律上は自社に有利にできるが、相手の顔を立ててここはあえて譲歩しよう」とか、「この表現だと相手の社長が気分を害するかもしれないから、少し柔らかい文言にしよう」といった、人間同士のパワーバランスや感情を考慮した「調整」が欠かせないと言えます。AIの出力した「正論」を背景も考慮せずに鵜呑みにすることは、ビジネスにおいて劇薬になり得るのです。

4. AI活用時代にこそ求められる「人間(専門家)」の調整力

誤解のないよう補足しますと、ビジネスにおけるAI活用自体を否定するものではありません。一般的な情報の収集や、定型的な文章のたたき台を作成するツールとしては、AIはこれからも手放せない強力な武器となるはずです。

しかし、先ほどの著名人の事例や契約書作成のリスクからも見えてくるように、「AIが出した答えを、そのまま現実社会の複雑なビジネス状況に適用して良いかどうかの『最終判断』」は、決してAIに委ねるべきではないと考えられます。

  • 目の前にいる相手の感情を推し量ること。
  • 業界の慣習や、その企業が置かれている泥臭い「背景」を理解すること。
  • 白黒つけられない問題に対して、双方が納得できる「落としどころ(グレーゾーン)」を探り当てること。

これらこそが、AIには代替できない「人間」の、そして我々のような「実務を担う専門家(行政書士など)」の真の価値であると言えるのではないでしょうか。

NAKA行政書士事務所は、関西を中心とした製造現場に日々寄り添う「製造業支援特化型」の行政書士です。AIが出力するような画一的なアドバイスではなく、社長の言葉の裏にある熱意や、現場の泥臭い事情といった「背景」を深く汲み取り、取引先との関係性にも配慮した実用的な法務サポート(契約書作成や事業計画書の策定など)を提供いたします。「AIの一般論ではなく、自社の事情に合った血の通ったアドバイスが欲しい」とお考えの経営者様は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。

AIには真似できない、自社の背景や実態に寄り添った法務・経営サポート。
経営の右腕として伴走する「顧問契約」のご相談まで承ります。

5. この記事を書いた人(専門家プロフィール)

[行政書士 中田 大智]

NAKA行政書士事務所 代表 / 関西の製造業支援特化型・行政書士

関西を中心とした製造業(町工場・メーカー)の支援に特化した行政書士。不透明なコンサル業界や一部悪徳業者による違法な申請に一石を投じるべく、適法かつ「入金後まで徹底的に伴走する」補助金サポートを展開。AIには不可能な「現場の暗黙知の言語化」と「経営者に寄り添う対話」を重視し、事業計画書作成から、設備投資に伴う関連法規のチェック、取引先との契約書作成・リーガルチェックまで、製造業に不可欠な行政手続きをワンストップでサポートしています。「社長がモノづくりに専念できる環境をつくる」をモットーに、経営の右腕(法務顧問)として伴走します。

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